そうクジラに聞いてみたことがあるの。でもその返事はくれなかった。

だけど天国のような景色の場所には連れて行ってくれたわ。

大きくて遠くまで見えるきれいな海に太陽の光が差すの。雲の間から、何本も何本も海に向いてまっすぐな光を下ろしていたのよ。美しい場所。

それを眺める丘は断崖の上だった。そこはモハーの断崖という所。

私はそこが怖くはなかったわ。荘厳な景色だったけど、足元が険しい場所という訳ではないの。歩けるように整備されているし、訪れていた人もたくさん歩いていたわ。

だけど私はもう知っていたの。

ここでその人達とは交われない。喋ることも触ることも出来ないの。

だって、違う世界にすれ違っているから。

見えている人間の世界には、私はもう居ない。見えてはいても、人間には私達は見えない。私が喋っても聞こえないんだもの。

こずえちゃんや緑のトンネルで出会った人は、私とおんなじ。そういう人にしか話すことは出来ないわ。

私は海の方を見ていたのよ。

太陽から海に降りている光のカーテン。風で雲に揺られて動くんだもの。私が立つ場所よりも崖の方には何人か人が立ってたわ。

一人、若い男性が振り向いて、私に目が合った。

(えっ?)

そこに立っている男性は、私と同じくらいの年齢に見えたのだけど。

そばに行ってみたら、私の方を見ているの。見えないはずなのにどうして見ているのかと思ったから、勇気を出して話しかけてみたわ。

「あなた、誰?」

返事は無かった。やっぱり、気付かれもしないし見えてもいないんだと思ったら、ふいに返事が帰って来た。

「君も?」

一瞬、驚いたのだけど、その人は私とおんなじだった。