「あなたも?」
「うん」
「海、見ていたの?」
「そうだよ」
「なんだあ、私も同じ。クジラに連れてきてもらった。あなたは、どこから来たの?」
「僕は、あの太陽を見ていた。それから光も、海も。風も感じたかったから」
「へえ、そうなの」
「でも、分からないね。生きているのと違う……」
私は、とても悲しいことを言われている気持ちになったけど、きれいな景色が見えていたから平気だった。
「でも、天国のようなきれいな景色だと思うけど」
「僕は天国に行くのか、やっぱり?」
その人はどこか寂しそう。分からないでもなかったわ。だから、もう一回聞いてみたの。
「どこから来たの?」
「クジラに乗ってだよ」
私は驚いた。だけど、聞いた話からは私と同じクジラ。部屋にテーブルがあって、そこにいつも準備されていることとかも、全く私と同じだった。
(でもこれまで会ったことはなかったのに、不思議……)
「名前は?」
「私は、橋本日向子って言うの。あなたは?」
「テツロウ」
「テツロウ、くん?」
「うん、そうだよ」
テツロウ君は、その後、私と一緒にその辺を散歩してくれた。
「塔が向こうにある。行ってみた?」
私は首を振ると、手を取って連れて行ってくれたわ。
「行ってみよう!」
テツロウ君の手は温かかった。
【前回の記事を読む】「今日は日向子さんが最初の頃の話をお伝えします」彼女が、まだ自分自身が鯨の中にいることを知らなかったときの話
次回更新は9月4日(水)、11時の予定です。