第三章

ふたりは葉っぱの上の方とか続く線路の先の方とかを見て笑顔になったの。

「綺麗でしょ?」

私がそう言うと、女の人が「ええ、とっても」と言った。

そして、こずえちゃんが聞いたの。「お兄さんたちはどこから来たの?」

「僕たちはチェルノブイリで」

私はどこの事か分からなかった。そして女の人は涙を流したのよ。

どうしてか、私はそのとき理解ができなかった。後で、こずえちゃんが教えてくれたけど。

男の人がこんな風に言ってた。

「ほら、良かったじゃないか。ここにふたりで来たかったんだから。ようやく、来れた……」

私とこずえちゃんはその人たちがずっと歩いていくのを見て、帰ることにしたの。

また気球に乗ってね。

海のそばでクジラに帰る時、こずえちゃんが教えてくれた。

「あの人たち結婚したばかりだったんだって。あのトンネルにはハネムーンで」「新婚旅行だったの?」

「いいえ。新婚旅行に来るはずだったのよ。きっと、ずいぶんと昔に来るはずだった」

「昔?」

「だから泣いていたんじゃない」

「私たちと同じよ」

こずえちゃんはそう言ったわ。

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藤井奈々子さんはこの日、私ではなくおばあちゃんにだけ向いていた。

「橋本文代さん」

おばあちゃんは「えっ、はい」と畏まる。

「今日は日向子さんが最初の頃の話をお伝えします」

「ええ。分かりました。お願いします」

なぜ藤井奈々子さんが改めてそう言ったのか。私は分からなかった。

(最初の頃の話ならなぜ最初の日に話さなかったのだろう?)そう考えた。

だけど、私は後から理解した。

話していくうちに、おばあちゃんは音も無くたくさんの涙を流したのだ。

それがその理由だった。