「コリンズせんせい、わたしはアメリカじんじゃないの?」

「もちろんナオミはアメリカ人よ。私もそう。でも、この国に大昔から住んでいる人はネイティブ・アメリカンの人たちだけよ。他の人はみんな移民してきた人たちだから、祖国の国旗は二つ以上あることになるでしょ。人によっては、もっとあるかも知れない」

コリンズ先生の言うことは分かるのだが、ナオミの気持ちには何かしっくりとこないものが残った。クラスの中で、アジア系あるいはオリエンタルと呼ばれる生徒は一割に満たない少数派だ。

私は白人や黒人のクラスメートとは違うんだ。普段は忘れているそんな思いが胸に迫ってきて、友達がちょっと遠くに見えたことがある。からすたろうもこんな気持ちだったのだろうか。

その日の夕食時にナオミは両親に尋ねてみた。

「パパ、わたしはアメリカじんじゃないの?」

幼い娘の唐突な問いかけに、ケビンは思わず問い返した。

「どうしてそんなこと聞くの?」

ナオミが学校でのコリンズ先生とのやりとりについて話すと、ケビンはポケットからクウォーター(二十五セント硬貨)を取り出してナオミの前に差し出すと、こう言った。

「ここになんて書いてあるか分かる?」

「むずかしくてよめない」

ケビンがコインに刻まれた文字を、指でなぞってみせながら教えてくれた。

「これはラテン語でEx pluribus unumって書いてあるんだ。多数からひとつへ、という意味なんだそうだ。

他のコインやアメリカの国章、ほら、大統領が演説する時に後ろに翼を広げた鷲のマークが見えるだろ? そこにもこのことばが書いてあるんだ。たくさんの州が集まってできた合衆国とか、いろんな人がまとまってこの国を形作っていることを表しているんだよ。

アメリカはモザイクのような国なんだ。小さなピースが寄り集まってできているジグソーパズルは、近くで見るとばらばらだけど、少し離れて眺めると綺麗な絵に見えるだろ?