はじめに ―校長へのある疑念―

教員が守るべき基本原則

母親の報告書を拝読し、嫌な予感がしました。

「小学校の校長はタカシくんを見守りたいなどといって中学校へ送り出したが、結局はあきらめて投げ出した。そしてあろうことか教育長に栄転した。

中学校の校長にしても誠心誠意に努力するなどと口にしているが、同じように投げ出してしまわないだろうか。タカシくんの家族が泣き寝入りすることになりはしないか」同時に、ある疑念を抱きました。

「いったい、何のために子どもがこんなにも苦しまなくてはならないのだろうか。学校は学習指導要領を正しく理解して、いじめや不登校に対応しているのだろうか。とりわけ学校のリーダーである校長の責任は重い。校長は教職員に対し、学習指導要領を踏まえた活動を指導助言しているのだろうか」

教員には、かならず守るべき基本原則があります。それが「学習指導要領」です。学習指導要領の解説書には、

「学級の中などに、いじめや暴力、差別や偏見などが少しでも見られる場合には、学級活動はもとより生徒会活動などでも適切に取り上げ、学校全体でその問題の解決に取り組むことが必要である」とはっきりと明記されています。

文部科学省(以下、「文科省」)は「学習指導要領は法的拘束力を有する」としています。つまり、法規と同様に強制力を持つとの意味で、先生は教育公務員として学習指導要領を守らねばなりません。それが法治国家の原則で、守れないようでは国民の信頼が揺らぎます。

今日、いじめの隠ぺい、子どもの孤立と居場所のなさ、知らぬふり、被害者の自殺といったニュースがメディアを賑わせ、学校への信頼が低下する中で現場の先生方のみならず教職を目指す人にとっては、教員生活のどこに希望なりやりがいなりを求めたらよいのかという不安や不信が拡大しています。

本書は学習指導要領に焦点を当て、学校のいじめ・不登校対策の問題点を現場の視点から探ります。

学習指導要領は教員採用試験にはかならず出題され、学校関係者にとっては常識ですが、保護者や門外漢の方にとっては「何、それ」と見たことも聞いたこともないでしょう。

本書はそうした点も踏まえ、はじめに学習指導要領を分かりやすく解説した後に具体的ないじめ対策へと繋(つな)げていきます。なお、本文の学習指導要領は「中学校学習指導要領」を指します。