はじめに ―校長へのある疑念―
定年退職後、私は現職のときに覚えた園芸や農業をしながら、地域で親子の田植えや稲刈り体験教室を開いたり、絵画教室や教育相談活動を行っています。
ある日、中学生の母親から、「子どもが友だちからいじめを受け、長い間学校に行けていません」と相談メールが届きました。
以下、母親が令和5年1月に町の第三者委員会に提出した報告書より、実際に学校で何が起きていたのかを探ります。
いじめの発見
生徒の名前はタカシくん(仮名)、少し恥ずかしがり屋で内向的な性格ですが、普段は明るくゲーム好きなどこにでもいる中学生です。ただ、3年以上も不登校が続いています。
発端は、小学校4年生のときです。同じクラスの男子児童Aくんが突然に、身体を突くなどタカシくんにちょっかいを出してきました。タカシくんは何のことか分からずに、相手にしませんでした。
しかし、Aくんの行為は次第にエスカレートし、叩(たた)くとか蹴るなどの暴力に変わっていきました。Aくんとはたがいに家に遊びに行ったこともあり、タカシくんは「どうして」と困惑しました。
報告書には当時の様子が、
「Aくんの態度は変わることなく、叩く頻度も力も増してきた。教室内での暴力もあった。不意打ちで叩くと言うより、殴るような強い感じ、やめてと訴えてもやめてくれなかった」
「暴言は日常的、やめてと約束しても、またぶり返す。後頭部を不意打ちで強く叩かれたりした。叩かれない日もあったけど叩かれない日はほぼほぼなかった」
と生々しく綴(つづ)られています。
それでもタカシくんは、「Aくんは優しいところもある」などとかばうような言葉を口にしていました。事実を知った母親は、すぐに担任に連絡しました。
担任はタカシくんを呼び出して「大丈夫か」と問いかけましたが、タカシくんが「……もう大丈夫」と答えたために、以後に呼びかけはなくなりました。