清三郎は突然降って来た厄介ごとに辟易していた。

叔父が源次郎と清三郎を商人にしたいと言い出してから、父、陣左衛門の機嫌は悪くなるばかり、源次郎と清三郎の婿養子先を必死に探し始めた。

しかし、祖父が無役、父も勘定方の端役でしかない井口家に良い婿養子先が二口もあるわけがない。

武家の次男、三男など山のようにいる。千石もあるような大尽の旗本なら十分な持参金が用意できるし、それなりの家柄だからツテもある。婿養子の先も見つかりやすいだろうが、大した持参金も用意できない、ツテも無い井口家では探すだけ無駄であった。

叔父に頼んで持参金を用意してもらうか、幕閣に口を利いてもらえれば話は別だろうが、叔父は二人を商人にしたいのだから頼むことはできない。

「これはいよいよ、腹を括らねばなるまいか」

道場の帰り道に源次郎は冗談めかしてそう言ったが、目が真剣だ。一緒に帰っていた清三郎と正助は思わず足を止めた。

「源さん、清さん、早まらないでおくれな。おとっつぁんは、二人が嫌だと言えば婿養子先と  持参金を用意する気でいるんだから。

おとっつぁんがあんなことを言い出したのは、私のせいなんだよ。私が不甲斐ないから」

正助が絞り出すような小さな声で言い募った。どうやらこの話には桝井屋正助が深く関わっていたらしい。

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次回更新は9月1日(日)、11時の予定です。

 

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