ご主人のガブリエル氏は骨ばった端正な顔立ちをしていて、近寄りがたい印象を見る人に与える。眼孔の奥の灰色の目はせわしなく動き、時に光る。どんな小さな事象も見逃さない。気難しくこのうえなく神経質だ。髪を後ろに撫でつけ、粗い糸で織られた縦縞のガウンに室内履きで、屋敷の中を幽霊のように歩き回る。そのあとをおろおろと、奥様がついて回る。
奥様の名前はメリンダ・B・イロンデイル。彼女は丸い頬の片方にエクボのある庶民的な顔をしている。結い上げた巻き毛は大きすぎるし、短い首には襟の高いブラウスはどう見ても似合わない。
ブルーの目と血色のいい唇とブロンドの髪が不釣り合いで、ユーモラスな印象を通り越して、お節介な年をくった没落貴族の末娘のようだ。本のページをめくる時のご主人の横顔が好きだと奥さんは臆面もなく私に言う。それくらい、この人は私になれなれしい。だから、やっぱり私は苦手。
この屋敷の清潔で、張り詰めた空気はある秩序によって保たれている。それは、大陸から連れてこられた五人の使用人の長、老嬢と呼ぶにふさわしいガードルード・サリヴァンのピンと伸びた背中が象徴しているものだ。
マダム・ガードルードは厳格で融通の利かない家庭教師の面持ちで、太っちょの料理人のデビット・コーネル、庭師のアイザック・コワレとふたりのメイド、それに私にも目の先ひとつで指示を出す。それは見事なものだ。ボタンをきっちり留め、たっぷりとしたくるぶしまである重たいスカートで屋敷の中を靴音を立ててゆっくりと歩き回るマダム・ガードルードの横顔はお札に印刷された偉人さんに似ている。
【前回の記事を読む】「囁き森」が僕を呼ぶ。僕は死神を呼ぶ黒猫だから僕は僕にふさわしい場所に行くよ