松葉は、これがアルミ鋳物になった製品を思い浮かべ、モノづくりの醍醐味に酔いしれた。山下先生は、工場を一通りご覧になってから、工場の応接室でにこやかに、これで安心しましたと言われて、出されたお茶を美味しそうに啜りながら飲まれた。
「前に、川口の鋳物工場を見たことがありますよ。何年前でしたかね。でもそのとき見た鋳物とはだいぶん違いますね。製法も違いますね。微細な表現ができるようになったものですね。これなら私のイメージを表現できそうです。いろいろとご無理をお願いすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」
ゆっくりした口調で、丁寧に言った。謙虚な先生のお人柄が、言葉の端々に感じ取れた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。先生の建物に対する思いに、近づけますよう製品を作り込んで参りたいと思っておりますので、足りないところはご指摘頂き、ご指導賜りますようよろしくお願い申し上げます」
松葉は緊張して、そう応えた。
「先生、もう昼の時間になりました。田舎料理でお口に合わないかもしれませんが、昼食を用意させて頂きました。ご案内いたします」
松葉は、掛け時計に目をやりながら言った。
昼食会場で、先生はしみじみと訴えるように言われた。
「私は、この仕事が最後になるかもしれないと思っています。それだけに、今までの私の経験そしてスタッフの力を結集して、全てをぶつけようと考えています。しかし、建築家のできることって限られています。