冬の訪れと卒業式

手術二日後に大きな地震があった。千恵は病院のベッドでニュースを見ていた。私は会社にいたが、直ぐに病院に駆けつけ、千恵の安否を確認した。義姉も来てくれていた。千恵は病室でTVを見ていた。多くの人や家が津波で流されていた。千恵は、

「私は大丈夫だから。彩ちゃんは大丈夫か、直ぐに帰って確認して!」

娘は携帯を持っていたが繋がらない。安否が確認できないためか気が気でない。電車は止まり、道路も渋滞しているようだ。病院から自宅までは、徒歩で四時間程度かかる。私は歩いて自宅に向かった。

多くの人が徒歩で帰路についている。楽しそうに会話している人や文句を言っている人も見かける。今は人に構っている余裕はない。一回も休むことなく家路に急いだ。

無事な姿を見ていないため、悪いことばかり想像してしまう。自宅にはいない可能性が高いと思い、学校に行った。夜の十時近かった。

娘は同学年の生徒七名と先生と一緒に学校の教室にいた。学校の先生が、千恵の携帯に電話を入れたようだが繋がらなく、無事であることが伝わらなかったのだ。娘は学校に保管してあった乾パンを食べていた。先生は、

「ご両親が迎えに来ていない生徒さんは、学校側で預かっていたんです」と言った。

他の六名の生徒も同じだった。娘は、

「今日は、調理実習があって楽しかった、友達がいたから寂しくなかったよ」

と言っていたが、いつ迎えに来てくれるのか、待ち遠しかったと思う。無事で良かった。娘の安全を確認後、千恵に娘が無事であることを連絡した。

自宅付近は、地盤が傾いているところや地面が隆起している場所があり、地震の大きさを物語っていた。何とか自宅まで帰ってくることができた。帰宅後、ニュースでは地震のことばかりで、多くの方が亡くなっているとのことだった。