第1章 人間じゃないの

彼女は、続けて打った。3歳くらいの子供は、面白いと思ったら、何度でもそのことを繰り返す。そのときの笑顔はとても清々しい。彼女の練習から、子供の繰り返しを思い浮かべた私は、その人の、初めて見たときの美しさに加えて可愛い一面を見たような気がした。

ボールに集中して真剣に打つ顔としぐさに、見とれてしまった。透き通る白い肌で鼻筋が通っている。そして運動神経抜群だ。こんな人が自分と同じ芝の上で時間を共有している。私は深い満足感と不安と焦燥感を覚えた。

こんな素晴らしい人といられる満足感。いつかは誰かのもとに去っていくだろうという不安。そして、早く自分の恋人にしたいと思う焦りの気持ちだ。

「だいぶよくなりましたね。コツをつかむのが早いですよ」

「ありがとうございます」

きちんと礼をした。この女性、若い割に礼儀正しい。話す言葉もチャラついていない。いいとこのお嬢さんか、昭和の時代からタイムマシーンでやって来た人に違いない。

「また今度一緒に練習させてくださいますか。上手な方と一緒にボールを打っているといろいろ勉強になります」

「はあ。僕でよかったらいつでも付き合いますよ」

その日は、40分くらい一緒にアプローチショットの練習をした。値段はたったの300円。