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ウクライナのクレベンという場所にも連れて行ってくれたわ。クジラはお友達を一人紹介してくれてその子といっしょに出かけたの。
「こんにちは」私が先に挨拶をしたわ。お母さんに言われた通り、大きな声でね。
そうしたらその女の子も返事をしてくれた。
「こんにちは。だあれ?」
「私は、橋本日向子って言うの。あなたは?」
「川田こずえ。森の妖精に会えるような場所があるから、って……」
その子はそう言った。私は綺麗な場所なら行ってみたいと思っていたから、そのお友達と一緒でいいわって思ったの。
クジラは大きな気球を準備してくれた。気球に乗るなんて初めてだった。だけど、運転なんて出来ないから「どうやるの?」ってその子に聞いたら、「多分、自動……」って静かに言ったわ。
気球は空の方に上り、風が吹くと、流れるように空中を進んだの。全然怖くはなかった。だって、こずえちゃんも居たし。やがて気球はある場所に降りた。こずえちゃんは「行ってみよう!」って私の手を引いたわ。
緑の葉っぱがモサモサしているところを両手でかき分けるようにして奥に進んだら、そこはトンネルの中だった。どんなトンネルだと思う? 緑の綺麗な葉っぱで出来たトンネルなのよ!
そこにはレールが二本敷いてあって、列車が通るんだって言ってたわ。その線路の両側が緑の葉っぱのたくさんある木で出来てて、何本もそれが植わっているから、葉っぱのトンネルはずっと向こう側まで続くの。
だけど、列車は全然来ない。だからその線路に沿って出来た緑のトンネルの中を二人で歩いて行けたの。
「綺麗だね」と私がそう言うと、「うん、すごく綺麗!」ってこずえちゃんも笑ってた。
列車が一台通るくらいの四角い空間でね。森の妖精の家に続く玄関みたいだった。しばらくして、横からバサバサと音がして、大人の人がふたり、そのトンネルに入ってきたの。私は最初、絵本の中の動物が現れたかと思ったわ。でも違ったけどね。
「あら、ごめんなさい」
大人のふたりは男の人と女の人だった。
「こんにちは」
私は今度も大きな声の挨拶をした。
「君たちもここへ?」
「えっ?」
その人たちはそう問い掛けてきたけど、トンネルの中の景色を見たら言葉が止まったわ。
【前回の記事を読む】次々に語られる死んだ大叔母の言葉 鯨と旅行をし、鮫と話す亡き大叔母は、一体どこにいるのだろうか...
次回更新は8月21日(水)、11時の予定です。