するとスズキ青年の精神に緊張感が生まれ、緊張感は義務感を突き上げ、義務感は場を盛り上げなければならない意識へと変化し、陶酔した気分を装って、「これはずいぶんと珍味ですね」と即答した。

テレビはなにかの話題を丁寧に伝えようとしていた。くだらないプロパガンダなのである。友人は気分が悪くなったのか、「このテレビ、音を小さくできる?」と尋ねた。スズキ青年はリモコンを持ち出したが、音量の操作ができなかった。どれ、と友人がリモコンを借りると、友人もわからない。

「音って小さくできるの?」

「ミュージック・プレイヤーができるのだから、テレビもできるんじゃない?」

しかしリモコンをいくらいじっても、音量は下げられなかった。箱船の住人を孤独にしてはいけないという配慮によって意図的に創られた友人と会い、旨いものを食べているというのに、白けた気分が了解された。友人はそわそわとし始めた。

「それじゃあ、テレビ切ろう」

スズキ青年はテレビの電源を消そうとしたが、電源ボタンを押下するにも、その電源ボタンが見当たらなかった。

「ミュージック・プレイヤーができるのだから、テレビも消灯できるよね?」

「寝る時間になると自動的に消える機能がついているから、もしかするとテレビには電源ボタンはないのかも知れない」

友人には学がある。市民かも知れない。

「テレビは箱船の支給品だから、役所に連絡してみよう」電話をすると受付に回された。