まえがき

アメリカのことなど、まだ、何も知らなかった。

ただ、アメリカの一つの文化と言ってもよいのか、多分、よいと思うが、僕はベースボールが、そう、野球が大好きだった。

僕の名前はサトウジュン、小さな頃から、皆にジョニーと呼ばれていた。

これは、そんな一人の野球好きの男の物語である。

第1編 野球との出会い

1回表 初めてのグローブ

小学校にあがる前、広島に住んでいた。東京から父の転勤で広島へ行ったのだった。広島といえば、原子爆弾。広島と長崎に原子爆弾が投下されて第二次世界大戦は終焉を迎えた。

原爆ドームや平和記念公園には親に連れられて何度か訪れた。子供ながらに、戦争の悲惨さ、原子爆弾の恐ろしさを思い知った。広島で幼稚園から小学校一年の一学期を過ごした。

その頃、夏の遊びとして、兄と裏山の方へ虫を捕まえに行くことがあった。僕は兄の後ろに着いて行って、クワガタ虫やカブト虫を探した。しかし、どんなに探してもクワガタ虫やカブト虫は一向に出てこない。

「ねぇ、全然いないよ。つまらないからもう帰ろうよ」と兄に言った。

「クワガタ虫は木の陰とかに潜んでいる。そう簡単には見つからない。我慢して見つけていかないといけない」と兄は言い、簡単には諦めない。

僕は虫を探す集中力はすぐに切れて、早く家に帰りたくて仕方なかった。つまらなくて、寂しくて、ほとんど半ベソ状態でうろうろしていた。

そんな時、「おいジョニー、見ろ! ノコギリクワガタの雌がいるぞ」と兄が突然言って、それを手で捕まえて大事に虫かごの中に入れたのだった。