第1編 野球との出会い

1回表 初めてのグローブ

夜ご飯を食べていると父が仕事から帰って来た。僕ら三人の姉兄弟は、「お帰りなさい」と父に言って、父は着替えをして食卓に着いた。

父が帰って来ると食卓には緊張感が漂う。僕ら三姉兄弟のうち、兄と僕は少なからず父を恐れていた。姉だけは父を恐れることなく、いつも自然な感じで接していた。

父は、夕飯の時、残業などがなく定時に帰って来た時は、必ず七時のNHKニュースを見ていた。集中して見ているものだから、その時間に父へ話し掛けることはほとんどない。そんなことはできなかった。

七時半になってニュースは終わり、別の番組が始まった。その時を待って僕は「ねぇ、パパ、僕、グローブが欲しい。どうしてもグローブが欲しい。お願いします」と思い切って父に言った。

「おまえは何を言っているのか。グローブが欲しければママに言えばいいだろ。そんなことはパパに言うことではない」と、キッパリと言われてしまった。

「ママに言ったけれど、『クリスマスにならないと買ってあげられない』と言われた。そんなに僕待てないよ」

「それならクリスマスが来るまで我慢しなさい」と言われて、この話題をそれ以上続けることを僕はできなかった。僕は、自分の思いが叶わない悲しさと、どこまでも厳格な父の態度に敵わない悔しさで、一人、泣き出してしまった。

泣く僕のところに姉が来て、「ジョニー、私からパパにもう一度頼んでおいてみる。だから、もう泣くことはやめよう」と言ってティッシュを渡してくれた。

そんな悲しさも悔しさも、一日経てばコロッと忘れてしまうのが子供の良いところ。僕はプラスチックのバットとゴムボールを持って、広場に行って一人で打ったり投げたりして遊んだ。

それから二、三週間経ったあとだろうか、父は仕事上の飲み会でもあったのか、少し酔っ払って、いつもと少し違って上機嫌で家に帰って来た。