第一部 日本とアメリカ対立—

第二章 緊張の始まり

最初の嘆き

いつものようにバーボングラスを我輩のご主人に手渡しながら、「今後のすり合わせと言いながら責任者以外の人を呼び寄せるなどあり得ませんね」と我輩のご主人の気持ちを斟酌しながら水を向けた。

我輩のご主人は、「うーむ、よく分からんな。普段は綺麗ごとを言っていても、ここ一番となったら外様の儂より身内の方が話し易く、聞き易いのだろう。儂と古代氏とは昔は意思疎通ができていたが、ここにきて少し……」と、寂しそうにぽつりと漏らす。

手にしたバーボングラスを掌の中でいたわりながらごくりとひと口飲み込んだ後、思い出すように、「日本を離れる前日に貰った古代外相の訓示の話はしたな」と切り出した。

そこで我輩は「はい、ワシントンD.C.に来てから見せてもらいました。そこにはかねての持論である『米英と対抗するには日本の立場をより強固にする必要がある。そのために三国同盟を中心に据える』と書いてありました」。

「うん、あれは外務省というより古代氏個人の考えだったと思うが、儂は少し違う受け止め方をしたよ」と微妙な言い方をしてきた。

「え、一旦訓示を受けておいて、赴任後その方針とずれても構わないということですか?」と聞いてみた。

驚いたことに、我輩のご主人は「その通りだ、ケン坊」と今度は断固とした口調で答えた。うーむ、だいぶしっかりしてきたぞ。