まことは、そんなだいちゃんに、どんなことばをかけてあげたいですか。みんなとあそぶときにだいちゃんだけ来ないのは、どうしてだと思いますか。
だいちゃんは、体は大きいかもしれませんが、他のお友だちよりも、けいけんしていることが少ないのかもしれません。みんながなにをはなしているかわからなくて、みんなとのかいわについていけなくなって、苦しくなるときがあるのかもしれません。
まことにはみんなといっしょにできるかんたんなことでも、だいちゃんにとっては、「みんなといっしょ」がいちばんむずかしいことなのかもしれません。
こんど、みんなに声をかけるのではなく、だいちゃんだけにこっそりと声をかけてあげてみてはどうでしょう。きっと、だいちゃんはまことといっしょにあそんでくれると、お父さんは思います。
なんでも自分と同じに考えたりしないで、まことが人を思いやれる子になってくれたらとのぞんでいます。だんだんさむくなってきたので、かぜにはじゅうぶん気をつけてすごしてください。
十一月六日 結城 稔
手紙を読んでいた僕は、えっ、と思わず小さな声をあげた。だいちゃんが僕のことを羨ましく思っていたというのは、どういうことなのか、全然わからなかった。
お母さんがいて、凛がいて、家族皆仲が良いことは、僕にとって当たり前のことだったからだ。
だいちゃんには兄妹はいるのか、お父さんとの仲はどうなのか、出て行ったお母さんからは連絡があるのか、僕はだいちゃんのことを何も知らなかった。
その翌日、僕は朝から、だいちゃんの様子をずっと注意深く見ることにした。そうして、改めて気付いたことは、教室の中で、だいちゃんはいつもひとりぼっちだということだった。
仲がいいと思っていた高橋君は、だいちゃんと同じ班なので会話は多いけど、いつも一緒にいるわけではなくて、お昼休みになると高橋君は今井君や鈴木君たちと一緒にどこかへ遊びに行ってしまった。
だいちゃんはどうするのかと見ていると、だいちゃんは、ふらりとひとりで教室を出て行った。正面玄関を出て、外靴に履き替えると、外へ向かって行く。そのだいちゃんを、僕はこっそり後ろからつけていった。
だいちゃんは、学校で飼育している小さなウサギ小屋の前で止まった。ポケットの中から何かを出してかがみ込むと、ウサギに向かってヒラヒラと振っている。ウサギたちはだいちゃんによく慣れている様子で、何かを食べ始めた。
「ウサギ、好きなの?」
僕が声をかけると、だいちゃんは驚いた顔をして振り向いた。低い声で、うん、と返事をすると、またすぐに顔を戻して黙った。ウサギが食べていたのは、給食に出ていたサラダのキュウリだった。
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