第三章 選挙戦

北海道ブロックでの遊説は、衆議院北海道五区で立候補した自衛隊出身の宇都宮隆之の応援を中心として、一度は諦めた北海道比例ブロック定数八名で五人の候補者を立てていたので、できれば三人の当選者を出せればと思っていた。

そこで武藤が立てた戦略は北海道では表と裏作戦で選挙戦を戦うことにしていた。

表とは宇都宮隆之の小選挙区での当選を果たす為、武藤が党首として応援遊説したり、五人の比例候補者が街宣車で道内を隈なく街宣活動するのと並行して、裏の戦略として、防衛大学校で教鞭をとった山脇が北海道内の陸上自衛隊北部方面部を皮切りに、自衛隊施設を隈なく表敬訪問して歩くというもので、表向きは教え子の活躍を確認する為としているが、常日頃武藤と行動を共にする事が多い山脇がこの時期に訪問する事で否が応でも武藤の立ち上げた日本民主保守党を頼む、と言って回っている様なものだった。

北海道の総人口は約五四七万人であるがそのうちの二〇〇万人は何らかの形で自衛隊と関係があると言われるほど自衛隊員、その家族、自衛隊の協力関連企業関係者、陸・海・空自衛隊OB等を合わせると二〇〇万人を上回っていてもおかしくないのである。

北海道遊説での第一声は、札幌ススキノであった。集まった聴衆を前にマイクを握った武藤は、

「北海道の皆さん、こんにちは日本民主保守党党首の武藤亜希子です。今日は皆さんに是非聞いて欲しい事があって、北海道までやってきました。

突然だけど皆さんは憲法に自衛隊の自の字も書かれていないのに日本に自衛隊が合法的に存在できている事に不思議だな?って思った事はありませんか? 憲法は国の基本法と日本の大学の法学部で教えておきながらその基本法には一切自衛隊に関する記述はありません。

その上憲法九条第二項には陸・海・空その他戦力は保持せずと明記してあります。 だから我が国の一部野党には自衛隊は違憲だと主張する人々がいる訳です。

では憲法に書かれてもいないのに何故自衛隊が合法的に存在できるのか? それは国連憲章の五一条独立国家の自衛権にその存在根拠を求めているからです。

国連憲章の五一条では独立国家は自然発生的に自己生存権に基づく自衛権を有するとしており、個別自衛権と集団的自衛権を行使できるとされているのです。

その為、国会では自衛隊の持つ戦闘能力は自衛のための戦力なので憲法九条第二項に記されている戦力には当たらない、と訳の分からない答弁が繰り返されているのです。