筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護
わが家の『トイレの神様』
ところがわが家の『トイレの神様』は、そっと背中に手を当て、やんわりと抱き起こしてくれるのです。これで安心して身を任せられるのです。
この(安心して身を委ねられること)が夫にとって『神様』の第一条件のようです。
通所介護に出かける前、入浴部隊が到着する前など、我々もつい「トイレはどうお」と促してしまいます。そういう時は、夫は首を横に振って澄ましています。
しかし、その時、自分の視野に『わが家の神様』をチラリと見つけようものなら、今言ったノーなど知らぬ気に、すぐにトイレの御用達サインが出るのです。夫の生活の知恵というものでしょうか。
この神様、塗装業の社長なのですが、少しでも時間が空くと、ちょっと介護室を覗いてくれるのです。すると十中八、九はトイレの注文が出るのです。
私は忙しいのに申し訳ないと思いつつも、つい夫の信頼しきって安心している顔に負けてしまい、神様の大事な時間を泥棒してしまうのでした。
ヘルパーさんがある時、私に向かって「私とても悔やしいの。私がどんなに頑張ってお世話しても、トイレの前にお婿さんに向ける堀内さんの、あの何とも言えない安心しきったまなざし、微笑みは、絶対に私には向けられません。ジェラシーを覚えます。悔やしい」と笑いながら言ったことがあります。
「ごめんなさいね。だってわが家の婿殿はトイレの神様ですもの。神様には誰も勝てるものではありませんよ」と私が言うと、そのヘルパーさんは「納得」と言いながら夫と目が合い、大笑いになったことがあります。
本当にありがとう、わが家の『トイレの神様』