第1章 入居者と暮らしを創る30のエピソード

そういった意味では、私は施設の入口に入っての施設の雰囲気やスタッフの応対が自分の感覚に合っているかどうかという感覚の部分を大切にしたほうが、かえって良いのではと考えるのです。 

17日目  寄り添い分かりあう

しばらく別の業務にあたっていた私は、久しぶりに老人ホームの施設長になりました。

心の底から湧き立つ思いに、私は入居者やそのご家族と話をするのが本当に好きなのだと、実感するのでした。

最近は、現場を知らず介護事業のコンサルタントをする方がいるようですが、そのようなことは私にはできません。理由は簡単。

現場に立たなければ、本質は分からないし、単に現場に対して「ああしろ、こうしろ」と言うことは、誰にでもできるからです。

老人ホームや居宅サービスの事業所において、介護の現場として入浴介助や排せつなどの業務にあたるのは、本当に大変です。

そこで、私は介護スタッフにこんなことをよく聞いてみます。

「ここで、忙しい業務は二種類あります。ひとつは日々の介護サービス等の通常業務、もうひとつはクレーム等の対応業務ですが、どちらがやりたいですか?」

ほぼ全員のスタッフが「通常業務で忙しい方が良い」と答えます。

そうなのです。通常業務や介護保険業務もすごく大変なのですが、それにも増して「クレーム対応の業務」はやりたくないようですね。

実は、このクレーム対応の業務を行うのが施設長の大切な仕事のひとつです。

施設を見学される際、「クレームがあった場合の対応は誰が行うのか」と聞いてみられると、その施設の本質を垣間見れるかもしれません。