【第三章】
15 日常生活への復帰訓練
■2021年12月16日
退院まで残すは2日。砂時計がけたたましく落ちていく感覚がした。
入院当初の厳しい段階からサポート頂いた20名ほどの看護師さんたちが昼勤、夜勤、交代の都度、代わる代わる顔を出して退院の祝意と激励を下さった。
一方で、痛む左脚がむくみ始めた。原因は分からないと医師から言われた。1月末までは手術後の様々な反応が出るらしく、当人の回復力に期待するしかないため、今は手が出せない。
退院とはプロがいない外の空間に出ること。ある意味、素人だけで傷と闘う覚悟が必要。衣食住はじめ、発熱や転倒、痙攣等が大きなリスクだが全てから必ず妻を守る。そう心に誓った。
16 感謝
■2021年12月17日
妻は一時、意識障害と視覚障害で簡単な文字も思い出せなかった。自分の名前も忘れてしまい、文字を書くことすらできなかった。
昨夜は「社長さんに明日一言お礼を申し上げたい」と笑顔で妻は語り、深夜一生懸命メッセージを書き始め私に託した。たった一言。「ありがとうございます」と。
小さなメモに一行書くことに懸命に取り組んだ。その気持ちを社長に渡すことが、妻の復活への第一歩だった。
午後、勤務先の社長からお見舞いを頂いた。社会とのつながりがここにあることが大きかった。感謝しつつ、自宅療養では妻を必ず守り復活させると誓った。
妻は入院時、全身血だらけの状態で救急搬送された。着ていた白い服は上から下まで真っ赤に染まった。当然ながら緊急オペの際にハサミで切り刻まれた。