この有名な音楽を妻は「うるさい」と言うが、私自身は「どうせやるなら楽しく。この曲はいつも私を這い上がらせてくれた」と、ボリュームを更に小さくしぼった。

コルセットや歩行器など装着完了。個室を出て廊下の突き当たり20メートル先が二足歩行の目標。ゆっくり踏み出した。二週間前にお世話になった看護係長と廊下で出くわした。

「歩けるようになったのね。素晴らしいです。本当に映画の主人公みたい。頑張ってね」と笑顔で声を掛けて下さった。

「音楽が漏れ聞こえてしまったかな?」と、私は頭をかいた。しかし、看護係長の笑顔が妻にパワーを注入したことだけは間違いなかった。

一人で30~50人を担当する看護師は、朝も昼も夜も、更に深夜も、ほとんどを患者さんの下の世話に体力を費やしている。生物にとって消化物の循環は重要と再認識しつつ、衛生面の確保は看護師さんにとって最大の課題。コロナ禍では尚更のことであった。

極限といえる環境の中でも、彼らがプロの看護師として正常な精神を保つためには、2つの世界を維持することが大切と学んだ。

「【仕事】と【プライベート】の両立。人に対する尊厳と相手を思いやる心は、正常なバランス感覚のみに宿る」、とても分かりやすい説明と理解した。

さらに看護師からは「楽しい会話で困難は一気に乗り切る。自分の脳は楽しいことでだまし続け痛みを飛び越える」と学んだ。患者さんの世界では相当難しい言葉だが、今は確かに、それしか乗り切る方法はないと感じた。