【第三章】

11 蘇れ左脚

■2021年12月7日

妻は医師から自宅療養の話を聞いてから明るくなった。年末には帰れると喜び、昨夜は眠れなかった様子。朝4時から5時は毎日泣いていたが、初めて静寂の中朝陽を迎えた。

事件が起きたのは、朝方私が売店に行った時だった。その隙に、妻はコルセットや歩行器の準備もしない状態で、自力でトイレに一人で行ってしまった。

私が部屋に戻った際に、倒れそうな状態でパイプ椅子にしがみつき、脚を引きずり、浴衣も床にずり落とし、前進も後退もできずもがき苦しんで泣いていた。私は焦った。

「退院の話で焦る気持ちは分かるが、単独の練習は許されていない。事前準備を軽んじて、転倒したら全てを失う。ここまでサポート頂いた皆にも迷惑をかける」

私が語尾を強めたため、妻は、ポロポロと涙を流して泣いてしまった。

「お家に帰れる身体に戻りたい。あなたに迷惑をかけたくない」と泣いた。

逆の立場だったらよく分かる。好きな時間に自由にトイレに行きたい。人間なら誰でも当たり前のことだ。そう思ったら今度は私が泣けてきた。

午後はリハビリ医師から松葉杖の使用方法を学んだ。妻は果敢に挑戦した。この日の夜、尿管が外された。長期間の接続で排尿の調節機能が喪失し血尿が出ていた。

看護主任は「排尿パックを外すことは不安も多いですが、使用し続ける限界点まで来ました。ここからは元の状態に戻していきましょうね」と優しく妻に話してくれた。

本格的な闘いが始まった。

■2021年12月8日

昨夜は尿管を外したが、排尿がいつ到来するのか、膀胱の状態に関して体内センサーが感知しないため、妻は認識できない。