私は一つだけもぎ取って、口の中に入れてみたわ。私の口には大きかったけど、モグモグとして味わったのよ。とっても甘くて、まるでぶどうジュースみたいだった。

私はそれからあと二粒だけ取って手の中に握ってから、もう一度芝生の方へ出てみたのね。ゆっくり遠くまで続くブドウ畑を見ていたら、あまりに広い場所だったので嬉しくなった。芝生にゴロンと横になって、空を見上げたの。

とても美味しいブドウがまだ手の中にあったから。もう一つだけ食べたら、眠くなっちゃった。そこで私はお昼寝をしたの。暖かくて気持ち良かったんだもの。

(この一つは、お母さんにお土産ね……)

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「それで、その先はどうしたのかしら」

おばあちゃんは藤井奈々子さんに聞いた。おばあちゃんが、小さな声だったけど初めてまともな質問をした。

「ゆっくりとお話ししていきますね」

私はおばあちゃんの横でおばあちゃんの手を握った。私も聞きたかったことは同じだったけど、口は出さずにいっしょにそのまま聞くことにした。

「それじゃあ、続けますね」

藤井奈々子さんはそう一言だけ言うと、おばあちゃんの方を少し見てから、端末に視線を戻した。

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私は戻って、ブドウの粒をテーブルに置きました。

「これはお母さんの分ね。お土産よ」

その日、私はあまりに美しかったブドウ畑に感動して、何度も何度も頭の中でその景色を思い出してた。(なんて綺麗な場所があったのかしら)って。

とても素晴らしい所があるのね、地球は。

私は、「もっといろんな場所に行ってみたい」と言ったわ。

クジラにね。

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「ねえ、藤井さん。テーブルって? 戻るってどこに?」

おばあちゃんはさっきよりも大きめな声で質問をした。藤井奈々子さんはいったん止まった。しかし返事はさっきと同じだった。

「ゆっくりこれからお話していきますね」

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次回更新は8月7日(水)、11時の予定です。

 

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