プロローグ―「細くて長い形の文化」をめぐる旅の始まり

私は、二〇一四年五月、イタリアのボルツァーノ県立考古学博物館を訪問した。考古学博物館のあるボルツァーノはアルプス山脈の南麓にあり、約六〇km北上するとオーストリア国境に至るイタリア北部の人口約一〇万人の静かな高原の町である。

この考古学博物館には、「氷の中からやってきた男」アイスマンのミイラが眠っている。約五三〇〇年前の男性のミイラはエッツィの愛称で呼ばれている。オーストリアのエッツ渓谷奥地で見つかった雪男から名付けられたのである。

考古学博物館に着くと、ただちに階段を上がりアイスマンの特別室に直行する。この部屋の温度と湿度はアイスマンが氷河の中にいたときと同じ状態に保たれている。

特別室の見学希望者が行列を作っている。順番が来て、一定時間の見学を許され、分厚いガラス窓から覗くと、そこにエッツィが仰向きに横たわっていた。

エッツィは両足をきっちり揃え身体を一直線にして、右手を少し開き、身体をかばうように左手を直角方向に不自然に伸ばしている。

私は、エッツィの硬直した茶褐色の身体から「なんと真っすぐ! ぐっと突き出た枝のついた木の幹にそっくり」と思わず叫んだ。