興福寺(こうふくじ)国宝館

館内には仏像や美術工芸品が所狭しと展示されている。主だったものを挙げる。これらはすべて国宝である。

板彫(いたぼり)十二神将、千手観音菩薩、天燈鬼(てんとうき) ・龍燈鬼(りゅうとうき) 、金剛力士。

そして興福寺といえば、やはり阿修羅(あしゅら) (国宝)であろう。元来、阿修羅は戦いを好むインドの神だったので、三面六臂(さんめんろっぴ) *の牙(きば)を剥(む) いた怖い顔で表現されるものもあるが、興福寺の阿修羅はそうではない。

興福寺東金堂と五重塔私は初めて対面したが、少年のようなやさしい面差しで、三面六臂で肌は赤いが異様な感じは少しもなく、すらりとしたその姿態(したい)は魅力的であり、人気があるのも頷ける。

*三面六臂:「面(めん)」は顔、「臂(ひ)」は腕で、三つの顔と六本の腕のこと。

大仏殿とは打って変わって静かだった国宝館を出て興福寺境内を通り、五重塔や南円堂(なんえんどう)を見て徒歩で近鉄奈良駅に向かう。

近鉄名古屋駅へ向かう特急の中で、印象に残った仏像を思い返してみた。

若き日の運慶の作とされる円成寺大日如来を第一に挙げる。「我が心のベストテン」の第一位に選んだ柴門ふみはこう書く。

〈私が好きな運慶の中でも最高の作である。なぜ、ここまで私の琴線に触れたのかというと、像が少年だからなのだ。凛々しく若さの息吹きが伝わってきて、そこから生意気な自信までも感じられる仏像なんて、他にはない。仏というよりは〈少年〉の像。でも、こうごうしいまでのありがたみもある。とにかく私の生涯ベストワンであることは間違いない〉と。

もう一つ挙げるならば興福寺の阿修羅であろう。よく見れば阿修羅の三つの顔はそれぞれ表情が違う。朝日新聞土曜版の特集「奈良には 古き仏たち」の筆者の一人、沖真治はそれについてこう表現する。〈正面の顔は遠くを見つめて祈っているが、眉をひそめた目はどこか陰を帯びている。右の顔は唇をかんで何か悔やんでいるようだ。左の顔は意志的で決意を固めた風である〉と。

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