「はい、ええ。元気ではありますが」
お母さんが電話を掛けた先は、国立情報未来科学研究所という名前だったらしい。
「実は、日向子さんという方からのご依頼で集められた旅行記をお伝えしたいのです。日向子さんのお母様に」
「えっ? 日向子から?」
電話の相手が日向子さんの名前を言ったと言う。お母さんは、怪しいと疑う反面で神妙な顔をしていた。
「わたくし、担当の藤井奈々子と申します」
お母さんはためらった後にこう付け加えた。
「あの、日向子は遠の昔に亡くなっているんですけれど」
「そうですか。そうかもしれませんが、その昔と言われている時に日向子さんが旅の記録を取るように指示されたのかもしれません」
「指示ってそんなこと……」
お母さんは言いかけて止めた。
「旅って言うと、どなたが旅を?」
「シロナガスクジラです」
藤井奈々子と名乗る女性はそう言ったって
お父さんお母さんは「どうも怪しい」という結論をいったん出したんだけど、おばあちゃんには話すだけ話すらしい。
「お母さん、今度の土曜日お客様が来ても構わない? この前の杏南が鯨からもらった手紙の話よ。私たちがそこに電話をかけて調べたら、名前も知っていてね。お話がしたいって言うの。一応心配だから私たちも一緒に立ち会って会うってことでいいかしら?」
おばあちゃんは「もちろんいいわ」と言った。
そしておまけに「待ち望んでいたの」と、嬉しそうだった。
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