第一章

潜水艦が誰もいない海中を進むとき、どんな音がするだろう。

厚い鉄の壁が軋むような音を出すだろうか。

船内で誰かが物を落としたら、船底の鉄板に当たって低い音が海中に漏れ聞こえ、水を媒介として遠くの方まで伝搬するに違いない。

何十年も使われていない古城には、敵の侵入を防ぐ鉄の扉があっただろう。

大きなその扉は人が一人で動かすのは困難だが、鎖に連結された開閉装置を使って力学的に負荷を軽くする仕組みで開けることができる。

しかし月日が赤錆を付けたその大鉄壁はもう二度と動かないはずだった。もし魔女がいて月の力を操れば、その大きな扉が低い地響きも引き連れて再びその道を開くかもしれぬ。

地面を動かすことができるとしたら、誰ができるだろう。

地下で悪の兵器を実験すれば、地球が犠牲になりながらその身を削る音が出るかもしれない。地殻を動かす巨人が地球の真ん中辺にいたら、低い音と一緒に地面の振動を生むだろうか。

「ドゥーオォーゥン」

言葉にすることは難しいのだが、今、私の目前の多分水中の奥深く、遠くの深いところから音が出ている。

「ゴオオー」

「なに、この音……」

私が、声に漏らしたその時だった。

灰色混じりの青空と青い海は日常だったのに、眼前を上下に分かつその下半分の青は変わった。