第一章

「久しぶりだからみんなで出かけるんでしょ、お父さん」

「そうだな……」お父さんが答えた。

「おばあちゃんがあんまりにも鯨を気にしているから、海の方に見に行ってはどうかな?」

お父さんがそう言って、そうすることに決めた。

もちろん鯨が見られるなんて思っていない。それはおばあちゃんと連れ立って家族みんなで出かけるきっかけでしかない。海に行くのだからそれはそれでいいんじゃないか。そんな風にみんなは思った。

私だって、これが半分はまだしっかりしている"まともな"おばあちゃんと出かける最後になるかもしれないってことは感じていた。鈍感なお兄ちゃんだけはどうだか分からないけど。

車はみんながちょうど乗れた。

「おばあちゃん大丈夫? きつくない?」私が声をかけると「うん」とだけ言葉が返ってきたけど、表情は硬い。

「じゃあ、出かけよう」

ワゴンは走る。おばあちゃんの家を背に、どこに向かっていると聞かれたら、「戻れない旅」って答えちゃいそうな雲が空の方には見えてた。

晴れていれば良かったのに。

今日はあいにくの鈍い空。

そして何時間も時間はかからずに海には着いた。海の駐車場から見える空はまだ灰色が水色の勢力を制圧している。

風がほんの少しだけなのが幸いだ。

来るときにも窓から滲んでいる空を見ていた。

空の雲はあの頃もおんなじだったのかな。