大人になってからの勝手な想像だが、祖母は恐らくJIS規格ができる前の粗悪な品質のチーズを食べたことがあり、それがトラウマになっていたのだろう。祖母自身も今回のイタリア旅行を楽しみにはしていたが、唯一の懸念材料がそこだと時々口にしていた。
イタリア料理はチーズ無くしては語れる訳がない。だが蓋を開けてみればどうだっただろうか。大人数でシェアする巨大なピザに全員圧倒され、それを口に入れた瞬間揃って「美味しい」と言う声が多く聞こえた。そしてまさか祖母も同じことを口にするとは。祖母の口調を横で聞いていたが、これは全くの嘘ではない。
祖母の本心から出たものだ。恐らくこれが、この旅の中で私が最も驚いたことだったかもしれない。人間、何歳になっても変われる者は良い方向に変われるものなのだ。
歳を取ったらどのような人になりたいかと聞かれた時、私は真っ先に祖母の名前を上げるだろう。元々祖母は知的好奇心が旺盛な上、世話好きで多くの人との関わりを大切にしている。そのような人には当然人も集まり、多くの刺激を与えてもらえるのだ。
私自身まだ内気で、正直人間関係を構築していくことは不得手なままだ。それでも、歳を取っても何かを学ぶこと、自分の考えを変えていくことを楽しむ姿勢に関しては、祖母は私の道標なのである。
そして驚きの時間が過ぎ、ローマ最後の観光の時間がやって来た。コロッセオ周辺。残念ながらコロッセオの中に入ることはできなかったが、一見小さく見えるような建物でも当時約五万人を収容できたのだから、古代ローマ人の叡智は計り知れない。
元々サッカーのプロリーグが好きだった私は、なおさら感心したものだ。ただ、外からも分かった通り、建築資材としてこの後世に残る有名建築物を壊したのだから、昔の人も罪なことをしたものだ。
当時学校での成績が悪い中学生が持っていた知識なぞたかが知れているが、それでもローマ帝国の侵略者が自国の発展に役立ちそうな建築物を破壊し、かつ古代ローマ人が作り上げた知恵を躊躇いもなく葬った罪はあまりにも大きすぎるのではないか。
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次回更新は7月22日、11時の予定です。
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