第二章 独身時代、青春を謳歌する―日本復興の熱気の中で

揺らぎはじめた心

技能職と言われる私たち社員は、いつも厳しい環境の中で働かせられる。二十四時間を三交代。夜働き、昼間寝る生活も経験した。換気の悪い粉塵まみれの工場内に八時間こもって働き続けたこともあった。

大卒の社員は新入社員の頃に「研修」として数か月ほど一緒に働くこともあったが、いつのまにか別の部屋で事務仕事をするようになる。

十年以上も後から入った年下の社員に、仕事の指示を出されることもある。彼らはあっという間に主任、課長と偉くなっていく。給料の格差だって、かなりのものであったろう。それは見て見ぬふりをした。

入社当時からずっと感じていたことだったが、これからもずっとこうした場所で、厳然たる格差のある企業というオリの中で、定年までずっと働き続けることが、私にはどうしても我慢できなかったのだ。

上司に相談したが、当然反対をされた。

「ここで働いていれば、一生、生活の心配はない。世の中、そんなに甘くはないぞ。定年までがんばれ」

しかしそうは言われても、一度揺らいだ心は、元には戻すことができなかった。

「もう、人に使われて働くのはイヤです。焼鳥屋でもなんでも、自分で商売をしようかと思います」

こう言うと上司や仲間も、仕方ないというようにあきらめ半分で納得してくれた。