ですから、これまでの人生でも特にこの本の内容を思い出すことはなく、EQとは関係なく過ごしてきました。
しかし、最近私の気持ちに変化がありました。ビジネス関連の情報を探していた時に、社員教育のためのプログラムの存在を通して、再びこのEQと出会うことになったのです。私が経営する介護会社の社員にEQの試験を受けてもらおうと、まず私自身がこのEQの試験を受けてみることになりました。
そこでもらった試験結果の深い意味を知りたいと思い、20年以上前に買っていたこの本を再び本棚から引っ張り出して読むことにしました。
この本を読み返してみると、初めて読んだ当時はまったくピンとこなかったのですが、非常に重要な視点がたくさん示されていることに気づきました。
当時すでに、脳は計算能力など知性や理性をつかさどるだけでなく、理性が働く間もない瞬時の判断をする仕組みも持っていて、生命の危機に対処しているということがわかっていました。
さらにその仕組みの正体が〝感情〞という、理性至上主義の社会では「役に立たないオマケ」のように思われていたものであったこと、そして実は〝感情〞こそが、オマケどころかうつや不安、心的外傷など現代における多くの心の問題の原因となっていて、それらの問題の解決のポイントになりうること、そして本書のテーマにもつながるのですが、〝感情という知能〞は加齢によって衰えるどころか、成人後も鍛えて成長させることができるということを改めて知りました。
これまでの話をまとめるとこうなります。
人間には〝理性〞と〝感情〞という2種類の知能があり、前者は加齢や認知症という病気が原因で衰えていきますが、後者は人生の最後まで残ります。
ということは、その2つの知能の人間の中での重要性は、人生の初期や中盤の仕事盛りまでは理性>感情であったかもしれませんが、人生が進むと徐々に理性<感情になるということです。
そう考えると、認知症の現場で出会う患者や家族のとまどいや混乱、頭では理解できているのに気持ちが割り切れない様々な問題、家族間の葛藤の根本原因がこのあたりにあったのではと思い当たるようになりました。
【前回の記事を読む】周囲が気づきにくく本人も家族も信じたくないという心理が働きやすい認知症