10. MONDO カイユの夢
カイユは、ゼノの師匠なる人物が、どんな人なのか気になった。意外と身近の人物かも知れないと想像を膨らましていると、ムスクは、「次の駅だ」と言って降りる準備を始めた。
駅は人気のない森の中にぽつんとあり、そこで降りたのは、カイユ達しかいなかった。駅の外には、一台の車が停まっていて、運転手の男が車の脇に立ち二人に向け言った。
「ムスク様ですか?」
ムスクは、驚きを隠し頷くと、男はドアを開けて言った。
「どうぞ、お乗り下さい。著者がお待ちしております」
男は、二人の到着を知っていて待っていたようだった。二人を車に乗せると更に暗い森の中へと車を走らせた。
森の奥へ車を走らせ、しばらくすると木々の中に一軒のログハウスが見え、車はそこで停まった。どうやらそこが小説家の家のようだった。運転手は二人を玄関まで案内すると、中年で細身の品のある女性が二人を迎え入れた。
女性の名はメイサと言い、挨拶を交わすと二人をリビングへと通した。物があまりないリビングに大きなソファーが置かれていた。そのソファーに色白できゃしゃな体つきをした年の頃は15、16才の少女が座っていた。
メイサは二人に紅茶を出すと、彼女が『雲海のエガミ』の小説の著者のアンだと紹介した。早速ムスクは、アンにエガミの世界について聞くが、興奮し帽子がずれ、隠していたムスクの素顔が見えてしまう。メイサは、その顔を見て少し驚いて言った。
「本当にあったんですね……。アンが近い内に猫の顔をしたムスクと言う人が現れると言ったので、実は半信半疑だったのですが運転手に駅へ行ってもらっていたんですが……、本当に……エガミが存在していたんですね……」
メイサは、ムスクの顔を見るまでは、本当にエガミの世界が実在するとは思っていなかった。そして紅茶を一口含むと、アンの過去を話し始めた。
「アンは、小さい頃からエガミの世界を断片的に想像していたの、なので私がそれをノートに書くように薦めたんです。
アンが想像する物にラムカと言う少女がメインとして出て来る話が多かったので、そのラムカを主人公として私がまとめ、それを小説にしたんです。しかし……エガミは彼女の空想だと思っていましたが……。
アンは元々孤児院にいて、私が引き取って育てていたのですが、その孤児院の方の話では、保護されて来た当初、彼女は自分の名前も覚えていなく、話す事もままならない状態だったみたいで、なのでアンと言う名は、その孤児院の院長が付けたようでした。
出会った頃から、アンはあまり喋らなかったけど、エガミの事はよく話してくれてました」
話し終えるとメイサは懐かしむように優しい眼差しをアンへ向けた。