①EGAMI始まり
ここは、雲の海に囲まれた無数の様々な大きさの島が浮かび、一つの世界を創り出していた。その世界をエガミと呼ぶ。エガミには、大陸島と呼ばれる大きな島が在り、周りには小さな島がいくつも浮かんでいた。その中に島民が八十人程の小さな島で、ラムカと言う少女がトミと言う老婆と暮らしていた。
ある日、ラムカは畑仕事を終え、雲海の見える港を歩いて家へ向かっている時だった。
「近くの島でカーと出くわして、襲われたヤツがいたらしいぞ……」
物売りと島民の男の会話が耳に入り、ラムカは聞き耳を立てた。
「カーってのは、確か花のような顔してて人の記憶を吸い取るって言う化物だろ? 今までこの辺りで見た事ないぜ?」
それを聞くとラムカは急に怖くなり、家まで走って帰った。
家に着くと早速トミに物売りが話していたカーの事を聞いた。トミは、普段見せない動揺したラムカの顔を見て、なだめるように言った。
「ラムカ、カーは雲海を渡れないから、心配はいらんよ」
ラムカは、それを聞き胸を撫で下ろした。
トミによると、カーは大陸島と呼ばれる大きな島にしか居ないようで、トミも、今までカーの事は、噂でしか聞いた事がないようだった。落ち着きを取り戻したラムカは、夕飯の支度を始め、眠りにつく頃には、カーの事などすっかり忘れていた。
ラムカとトミは小さな島でカボチャに似た植物の家に住んでおり、自給自足の生活をしていた。未だ13歳のラムカは畑仕事、トミは70歳を超えているが、毎日山に入っては狩りをしており、とても老婆とは思えない俊敏さが自慢だった。
その夜、皆が寝静まった頃、島に悲鳴が響き渡る。
ラムカは、その音で目が覚め、寝ぼけた目で恐る恐る窓の外を覗くと、薄暗い中、花の顔をした植物がカラスのような鳴き声を上げて、家々を襲い人々を追い回していた。
「な、なにあれ……」
植物が人を襲っている。その光景から、ラムカは昼間に聞いた噂を思い出した。
「あれがカーだ!」
そう呟くとラムカは、急いで下の階で寝ているトミを起しに行く。しかしベッドにはトミの姿はなく、ラムカが辺りを必死で叫んでも返事はなかった。
すると、玄関の方から物音がした。見ると何者かがドアをこじ開け家の中に入ろうとしていたので、とっさに部屋の窓を開け、その小さな窓から逃げ出し必死に走った。