ラムカは無我夢中で暗い崖沿いを走っていると、後ろから何かが追って来るのを感じ、森へ向かい隠れようと思い立つ。後少しで森へ入る所で、突然一匹のカーが目の前に現れ、ラムカは、驚き動けなくなった。見ると既に周りに三匹のカーが居て囲まれていた。

次の瞬間、三匹が一斉にラムカに向かい飛び掛かって来た。ラムカは、とっさにしゃがみ頭を抱えると、突如、聞きなれない口笛のような音が聞こえてくる。ラムカは、恐る恐る頭を上げると、時間が止まったかのように三匹のカーが、地面に立ち、動きを止めていた。村が在る方角から笛を鳴らしながら男が走って来る。

その男は軍服を着たやせ型の中年で、口には小さな銀色の細長い笛を咥えていた。

後ろには、男が引き連れて来た兵士が数人いた。

兵士が男に話しかけた。

「イムフラ様。ひょっとしてこいつが……?」

男は松明を近付けると、ラムカの顔をじっくりと観察して呟いた。

「ああ、そうだ。やっと見付けた。苦労させやがって……」

イムフラと呼ばれた男はラムカを捕らえるように指示を出し、兵士達が乱暴にラムカを引っ張り上げた。

(なに? なんで? お婆ちゃんは? 村は?)

ラムカは混乱していて、自分で立ち上がる事も出来ない。

「ほら、さっさと立て!」

兵士の一人がそう叫ぶと、突然ガタガタという音が近付いてきた。

音の方を見ると、それはラムカ達が畑を耕す時に使う、カタツムリの形をした大型の耕運機だった。誰も運転している様子はないがラムカの方に向かって来る。兵士らは、耕運機を止めようとしたが近付くと急にスピードが上がり、触れる事が出来ず、足を止めた。

その耕運機の裏に隠れ操作していたのか、トミが運転席に現れるとラムカの腕を引っ張り上げ、耕運機に乗せた。兵士達は、ラムカを耕運機から降ろそうとしたが、物凄いスピードで急発進し、その場から走り去る。

ラムカは、兵士達が遠ざかっていくのを確認するとトミに聞いた。

「お婆ちゃんどうして?」

「なんか物音がして外に出たら、化け物が居て隠れてたんだよ。そしたらお前が家から出てったから」

「お婆ちゃんは、あいつらが何だか知ってるの? あいつらはどうして私を追いかけるの?」

「さあね。今分かってるのは、とにかく逃げるということだよ!」

トミはさらに耕運機を加速させて、ラムカは慌ててしがみついた。

「くそ、直ぐに追え!」

イムフラはそう叫ぶと笛を吹き、カーに耕運機を追わせた。