①EGAMI始まり
足が早い一匹のカーが直ぐに耕運機に追い付くと、長い腕で運転席からラムカの首を掴みそのまま吊り上げて奪った。慌てたトミは耕運機からジャンプし、カーの腕目掛けて飛び降りると、カーは腕が折れたのか鈍い音と共にラムカを離した。
そして地面に転がったラムカをトミは、直ぐさま起そうとしたが、カーのヒマワリのような顔から触手が伸び、トミの腕や足に絡み付いた。動きを封じられたトミは、耳から触手が入ってくるのを感じると、ラムカに向け大声で叫んだ。
「逃げな!!」
ラムカは、我を忘れトミに絡み付いたミミズのような長細い触手を離そうともがいていると、カーは折れていない、もう片方の腕で軽々とラムカの胴体をつまみ上げ、そのまま崖から雲海へ投げ飛ばした。
それを見たイムフラは慌てて笛を鳴らしたが、間に合わなかった。イムフラは崖から下を覗き松明で照らしたが、ラムカは雲海に呑み込まれたのか姿は見えなかった。
②MONDO カイユ/ベッドの下の本
「いてっ!」
目を開けると見慣れた天井が見えた。どうやら寝ている間にベッドから転げ落ちたらしく、今見ていたものが夢だと理解するのに時間が掛かった。
「変な夢……。何だったんだ? あの化物は……」
床に転げ落ちたままのカイユはそう呟く。薄暗い部屋の中だったが、ベッドの下に何か落ちている物を見付けた。手に取るとそれは本だった。その本は、祖父のジルから、カイユの13才の誕生日にプレゼントされるはずのもので、表紙には数字の8の字を横にしたような変わったマークが描かれ、本を開くと全て白紙のページだった。
カイユは、幼い頃この本を見付けてから気になり、何度もジルに欲しいとねだっていた。いつしか根負けしたジルは、13才の誕生日が来たらカイユに渡すと約束していた。だが、半年前ジルは突然倒れ、意識をなくした。それからはジルは寝たきりになりベッドでただ一点を見詰め、部屋に置かれた人形のように動く事はなかった。
カイユはジルと二人暮らしだった。
自分一人でジルを介護するのは大変だったが、幸いにもジルの友人であるバナルバが介護の手伝いを申し出てくれて、ありがたく受ける事にした。
バナルバはジルより少し若く見え、いつも陽気で活力があり、おいしい料理を作ってくれるので、カイユはバナルバが好きだった。それに何故か以前から知っているような、自分の本当の祖母のように感じるくらい気を使わずに居られたので楽だった。
カイユの両親は、ジルから幼い頃に事故に遭い亡くなったと聞いていたが、ジルは、カイユとよく会話し、一緒に遊んで過ごしていたからか、今まで、あまり寂しいと感じた事はなかった。
カイユは、ベッドで横になりながら本を見詰め、ジルと遊びながら彼から学んだ事などを思い返していた。