②MONDO カイユ/ベッドの下の本

今朝、カイユが選んだ道は細い路地裏を抜ける道だった。小さな本屋の前で、2か月前にカイユのクラスに転校して来たベルサが店に向かい立っているのが見えた。

ベルサは黒髪が長く綺麗な顔立ちで、物静かな性格だった。その為かカイユは未だ彼女と話せずにいた。彼女の背後を通る時、彼女が気付きカイユに挨拶した。

「おはよう」

「えっ? お、おはよう……」

珍しい事もあるものだと驚きながら挨拶を返すと、ベルサは本屋のショーウインドーに目を戻し、飾られた一冊の本を指さしながら聞く。

「『雲海のエガミ』って言う小説知ってる?」

カイユは、突然の質問に戸惑いながら、その本を見て首を横に振った。

「この本の2巻が先週発売予定だったのに、延期になったの……」

ベルサのがっかりした表情に、つい好奇心が芽生え聞いていた。

「ねえ、その小説、そんなに面白いの?」

カイユの問いに彼女の表情が急に生き生きとしたものに変わり語りだした。

「エガミと言う異世界では、記憶を使う記憶使いと言う者達が居て、記憶を使って色んな物が造られているの。例えば魚の記憶を持った船や、犬の記憶を持った人などが居て、主人公の女の子は、そんな記憶を持った者達と冒険していく物語なの、面白いから読んでみてよ」

そう薦められたカイユは、ショーウインドーに飾られたその本の表紙をもう一度よく見ると今朝見付けたジルの本と似ているマークが描かれていた。その事をベルサに伝えると彼女は興味を示したので、カイユは鞄から本を出した。