第一章    今生の別れ

二〇〇一年十二月二十四日 

母の両親は、母が高校に上がる前に離婚したという。僕にとっては祖父母にあたるが、祖父は離婚後すぐに新しい家庭を持った。

祖母は母と伯父を養うため、懸命に働いた。だが、母が高校二年の時に病に倒れ、この世を去った。当時二十歳だった伯父は大学を辞め、化粧品の製造販売会社に就職した。その会社がアメリカに進出することになり、母の高校卒業と同時にアメリカに渡った。

ひとりぼっちになった母の心の支えになったのが父だったと、後に伯父が教えてくれた。確かに父方の祖母が、〝ラブラブ〟という言葉を使うほど、二人は仲が良かった。僕が生まれてからもっとラブラブだと祖母は笑っていた。

母が僕を抱きしめると、父が焼きもちを焼いて、「俺も俺も」と駄々をこねた。

「お父さん、大人げないよ」

僕は大げさに呆れた顔をしてみせる。

「大人げないなんて言葉、どこで覚えたの」

母が目を丸くした。

「本当に光はませてるな。言うことが五歳児とは思えない」

父が顎に手を当て唸(うな)った。

「お父さんが子供みたいなんだよ」

僕は腕を組み、顎を上げる。

「そんな生意気言うと、コチョコチョ攻撃だぞ」

父の手が、僕の脇の下や腰をくすぐりだした。僕は笑いながら、コチョコチョ攻撃から逃れようと、右に左に体をひねらせる。父と僕がじゃれあっている間に、支度を済ませた母は、キッチンで水を飲んでいた。