僕は父から逃れ、母のもとへ駆けだし、右足にしがみついた。
「もう行くの?」
目を潤ませ見上げると、母が笑みを浮かべ頷く。
「光の誕生日ケーキを買って帰るから、楽しみに待っててね」
「うん、分かった」
そう言いながらも僕の腕は、母の足から離れない。
「光、アニメが始まるぞ」
父がアニメのビデオを再生し、僕を呼び寄せる。普段なら父の誘惑に負ける僕だが、なぜかこの日だけは違った。
母から絶対に離れてはいけない気がして、僕は必死に母の足にしがみついていた。ひきずられるようにして、そのまま玄関まで行くと、父の手がにゅっと伸びて、僕の体を抱き上げる。母は名残惜しそうに、僕の頬にキスをした。それを見て頬を差し出す父にも、母は笑いながらキスをする。
「行ってきます」
満面の笑みで、母は家を後にした。
「光、お母さんが帰ってくるまでにやることがたくさんあるぞ。ちょっと待ってろ」
父はソファに僕を座らせると、階段を駆け上がっていった。暫くして屋上にある収納庫から、クリスマスツリーと大きな袋を抱えて戻ると、部屋の真ん中に置く。高さ百センチほどで、それほど大きくないが僕の身長と変わらないので、飾り付けをするのに丁度良い大きさだ。
毎年、十二月の最初の日曜日には出していたが、今年は父も母も仕事が忙しくて遅くなったのだ。
「よし、一緒に飾り付けしよう! お母さん、喜ぶぞ」