「悠子さん、信長はこの時系列でみてもすさまじい時を迎えています」

「本当ね、まさに阿修羅のごとくですね」

「この表でみますと一年ごとに展開がガラリと変わっていきました」

「優くん、勢力としてどうなっていますか、信長の実力を計るにはそこが一番よく分かるのでは」

「はい、おっしゃると思っていました」

優は資料を出して悠子に説明した。

「比較するために信長が十歳のころからの戦力も付け加えています」

優は一枚の表を取り出した。

 

《信長の兵力と経済力》

信長年齢  居城     動員兵力    推定石高

十歳    那古野城   一千五百人   三万石

十三歳   那古野城   二千人     十万石

十九歳   那古野城   三千人     十五万石

二十二歳  清州城    四千五百人   十七万石

二十五歳  清州城    八千五百人   四十三万石

二十七歳  清州城    一万一千人   五十四万石

三十二歳  小牧山城   一万三千人   六十三万石

三十四歳  岐阜城    二万二千人   百十一万石

 

「この表を見ますと明らかに信長の実力が大きく伸びていきます」

「すごいの一事につきるわね、尾張を統一した二十五歳、そして美濃を攻略した三十四歳の時、飛躍的に勢力が増大した、一目瞭然に分かるね」

「はい、言葉よりこの数値をみることにより現実感が分かります」

優は悠子に褒められて少し照れ臭かった。

「優くん、いよいよ岐阜城居館の解明に進みましょう」

「はい、ようやくここまできました」

二人はほっとした様子で顔を見回した。悠子は気を入れなおして言った。

「岐阜城は信長にとって特別な意味があると思う」

一つはこれまでの集大成であり、一つは将来に向けての土台であったからである。悠子の話は信長に対しての深い思い入れから出たものであった。

「信長の戦略には思想が感じられる、これまでの歴史上人物とは異次元なる人物と思えるの。信長を知れば知るほどそう思えるの」

悠子の語りは悠子の心の底から発せられたものであった。

「信長の行動は、私たちの考えられるあらゆるものを超えている。その源はどこからきたのか私は突き止めたい」

優は悠子の真剣な思いに触れていささか戸惑っていた。

しかし優も、悠子と一緒に信長の真実にせまればと思うようになっていた。

「優くん、まず岐阜城の概略を説明して」

優は歯切れよく、簡略かつ明快にまとめて説明した。

 

《岐阜城および城下町 概略》

「濃尾平野の北辺、長良川の左岸に金華山があります。当時は稲葉山と呼ばれています。単独峰、標高三百メートル余りで山頂からは三百六十度の展望があり、名古屋市街まで眺めることができます。

室町時代後期、守護代、斎藤利隆が居城を構え、その後斎藤道三、義龍の居城となっていました。道三は稲葉山下に城下町を築いていました。そこを改修して信長は新たに主要街道を建設し、周囲にお土居を巡らし、総構とよばれる城下町に造りなおしています。町に至る街道も幾つか付け加えています」

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