「光一さん、ネットで調べたんですけど、なかなかヒットしませんね」

「それはそうだろ。ウェッブサイトさえないんだからな」

「完全にネット社会からはみ出していますね」

やれやれといったニュアンスで啓二がコトバをつなぐ。

「で、仕方ないんで和菓子業界のこといろいろ調べてみました。和菓子の歴史って、けっこう古いんですね。室町時代あたりから続いている和菓子屋が数件あります。いちばんメジャーなのが『とらや』、そして『塩瀬総本家』。そして鶴亀堂……」

「え、この和菓子屋、そんなに古いの?」

「650年の歴史だそうですよ」

「650年前っていうと何時代になるの?」

「室町時代だ。この資料によると足利将軍家にまんじゅうを納めていたらしい」

「めっちゃ古いじゃないですか。あの足利氏がまんじゅうを食っていたなんて意外だなぁ」

「いまの社長は、いったい何代目になるんだろう。啓二、足利氏のことで知っていることは?」

「たしか、金閣寺を建てた……」

「ずいぶん大ざっぱだな」

「いまは『ツルカメドウ』って言っていますけど、昔は『ツルギドウ』って言っていたらしいですよ」。

小太郎がもたらした情報に光一が反応した。

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