「じつはな、この会社なんだ」
光一は、A4のクリアファイルをテーブルの上に置きながらそう言った。
「ツ、ツルカメドウ……総本家……」
「知ってるか?」
「いえ、全然知りません」
「オレも名前を知っている程度だ。先週ここの社長からいきなり電話がかかってきた」
「社長じきじきにですか」
「ああ、声の感じからすると若そうだった。オレの本を読んで連絡してきたらしい」
「あ~、あの本をですか。へえ~、変わったルートですね。広告の依頼なのに葛城光一の名前を知らないなんて業界に疎いんですね」
このコトバに光一はいっさい反応せずクライアントの説明を始めた。
「その資料によると関東を中心に30店舗ちかく支店があるらしい」
「そんなに大きいんですか。でも、鶴亀堂なんて知らないなぁ。少なくともこの近くにはないですよね。で、どんな依頼なんですか?」
「ホームページの制作とeコマースのシステム環境構築だ」
「ホームページのリニューアルってことですか?」
「いや、まったくゼロからの制作だ」
「え、いまどき、自社サイトを作っていないんだ」
「どうやらそのようだな」
「珍しい会社もあるもんですね。30店舗も支店があるスケールなら、自社サイトがなくちゃいまの時代やっていけませんよ」
「よっぽどのんびりしてるか、考え方が古いかどっちかだろう」
そのとき、自分のデスクで調べ物をしていた小太郎が、プリントした用紙を手にして二人の会話に加わってきた。