収められていたのは、証拠隠滅の指示と露骨な人種差別

テープは、訴訟が起こされてから2カ月後の1994年8月14日、テキサコ社の会議の様子を収めたものでした。議事録を録っていた社員が、正確を期すために録音したものです。議題はまさにこの人種差別訴訟についてでした。

録音には、役員たちが書類を処分するよう指示を出している様子が収められていました。

「証拠開示手続き」で自分たちに不利になる証拠が明らかにならないよう、破棄してしまえと命じていたのです。もちろん違法ですが、この点につきましては第7章で説明させて頂きます。

書類の中には、テキサコ社が二重の評価システムを用いて、白人を昇格させ、黒人を降格させていたことを示すものも含まれていました。また、この会議の議事録そのものについても、書類処分の指示の部分は取り除くよう、修正の指示が出されていました。

悪質な〝共謀罪〟として刑事訴追されてもおかしくない行為でしたが、さらにひんしゅくを買ったのが、会議の席上、役員の何人かが黒人従業員を「ニガー」「ブラック・ジェリービーンズ」とあからさまに蔑む表現で呼んでいたことです。テープは当初、原告側の弁護士へ届けられましたが、3カ月後の1996年11月4日、ニューヨーク・タイムズによって報道されると大きな反響を巻き起こします。

テキサコ社は態度を一変します。

報道の4日後には全社員に向けて「行為は嘆かわしいことであり、テキサコ社では決して容認されない」と発表し、翌週には会長兼CEOのピーター・ビジュア(Peter I. Bijur)氏自らが衛星放送のマイクの前に立ち、1万9000人の従業員に向けて、「この疑惑の行動は、当社の行動規範、基本的価値観、そして法律に違反している」「このようなことが起こったことを恥じ、憤慨している」と、自身、ショックを受けていると語りました。

また、ビジュア氏は独立した弁護士を雇って大規模な調査を行い、不正行為が認められた従業員は処分し、場合によっては解雇することも発表しました。

姿勢を改めたのです。

和解交渉もすぐに始まり、10日という異例の短期間で決着しました。テキサコ社は、クラスの約1400人の黒人に対して、計1億7610万ドル(229億円)を支払うことになりました。人種差別訴訟としては最高額(当時)の和解金でした。

また、テキサコ社は、クラスの従業員の10%の昇給を約束しました。「タスクフォース」も作ることになりました。目的は、原告側、テキサコ社の双方から人を出して、社内での差別撤廃、アファーマティブ・アクション、ダイバーシティを進めていくことです。

「タスクフォース」の提言は、テキサコ社が連邦判事に非現実的であることを証明しない限り、実行されなければならないとされました。また、同様の趣旨で全社的な教育プログラムの実行も約束しました。このケースは第1章で説明した「民活」が見事に功を奏したケースでもありました。

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