担当看護師の新井さんは、修作の血圧と脈を計ると、「お天気がいいから公園の池まで散歩しましょうか?」と言った。

修作は「お願いします」と寝たまま頭だけを持ち上げて頼んだ。

「車椅子持ってくるから五分くらい待っていてください」

「はい」

「あっ、ナースステーションで散歩伝えてからだから、十分ね」

「ゆっくりで大丈夫です」

新井さんはこっくりうなずいて病室を出ていった。十分も待たなかった。車椅子を押して新井さんは現れ、寝たままの修作をゆっくり起こしにかかった。

「痛い? うん、そうよねー痛いよねー」と言いながら力を入れてまずは修作の躰をベッドの端にずらしていき、足を床に降ろさせながら上半身を立ち上げると、ようやくベッドに座った形になる。

修作の担当看護師 新井まりかさんは入院の日、車椅子の修作を軽々と持ち上げて、検査室へと連れていった人だ。

「立ち上がれる?」

「はい、自分で立ちます」

「ゆっくり、ゆっくりね」

「はい」まるで生まれたての子馬のように足がふらついてぷるぷると震えてしまう。そこに間髪いれずつぎは車椅子をちょうど尻の下にくる角度に新井さんはセットした。

「そのまま座って、まっすぐ、ゆっくり」それでやっと散歩の準備ができた。

病室を出てエレベーターホールまで行き、ちょうど降りてきたエレベーターのドアが開くと、中は空っぽで、新井さんと修作はほっとしたように乗り込む。

一階に着くまで誰も乗ってこなかった。エレベーターが動きだすと、新井さんは用意してたように話しはじめるのだった。

「あたし看護大学のほうで講師をしてるから、今ちょうど試験が忙しくて、最初の挨拶だけで全然来なくてごめんなさいね」

「そうなんですか」

「夜眠らないんですって? 他の看護師さんたちが話してたから」