頼れる者さえいれば、たとえそれが地獄の番人であろうとも、すがりつきたい心境であったからだ。彼女たちの話題が途中で、失せ物の捜索であると気付き、何と聞き耳を立てていたのである。

昼食を済ませて、課に戻ると、すぐに明子を呼び出して、食堂で話をしていたスーパー・ウオコーの社長夫人の件について、とやかく質問を浴びせた。そして最後には、夫人の住所や電話番号を聞き出していた。

夫人が現時点で失せ物捜索を依頼した老人のことを何と思っているかはどうでもいいことであって、とにかく、仙人と噂される老人にだけは一度会ってみたいという気持ちで一杯だったからである。

次の日、彼は休暇を取り、早速夫人宅へ出向いた。前もって明子より上司が訪ねていくことを告げられていた夫人は、有三をスムーズに迎え入れてくれた。

今をときめく日本一の大型スーパーとなった“ウオコー”の社長宅ともなれば、いかほどまでに絢爛たる造りかと思いきや、意外と質素な佇まいであった。

憶測の域は出ぬが、この家の主は、豪華に外見を装うよりも、内実を重視する主義の者であるらしく、室内に置かれている家具や調度品の類も決して華美には至らず、実用性に富み機能的でしっかりとした品々ばかりであった。

そう考えると、夫人に贈ったという例の誕生日プレゼントは、不思議なことに唯一の例外であったのだろうか。

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