塵芥仙人ごみせんにん

そして、真面目で誠実な作業員は、次の水曜日、温泉組合に加盟するすべての旅館に連絡を入れたという。考えてみたら、分別を行う機械の起動スイッチに小鳥が衝突すること自体不思議極まりないのに、さらには、大量のゴミ山の中から小さな時計が放ったわずかな光を見出すことなんてあり得ない話である。

だいたい、その日(火曜)の箱根はおおよそ曇りであって、午前中、少しだけ雲が切れた時間があったにはあったらしいのだが、そのような状況下で、場内に日が差し込んだ時刻と、回転機が止まり、それに驚いた作業員がゴミ山に注意を向け、その中で日光を見事に反射した失せ物の瞬きを受け止めた瞬間とが合致しなければ、永久に気付かれぬまま、やり過ごされてしまったわけである。その後、彼は正直にこの遺失物の連絡を旅館に入れることとなったのだ。

かくして丁寧に、事の顛末を説明し終えた明子は、最後に自分の思いを友人にぶつけた。

「このような偶然の積み重ね、万に一つだってあるかしらねえ? 私にはとても想像できない。不思議と言うより、何か不気味さを感じてしまうのよね」

優菜は、腑に落ちないところがあったらしく、質問を投げ掛けてきた。