「明子、この話、ここで一つ整理しておきたいのだけれど、いいかしら。沙織夫人の箱根一泊旅行は、確かゴールデンウィーク終盤の土・日を利用したのよね。そして明子に相談を持ち掛けたのが、帰宅して次の日の月曜日。
夫人がゴミ仙人のところへお願いに行ったのは、火曜日の夕刻だったわよね。温泉組合の土・日に出たゴミは、月曜日に運ばれていって、分別作業は翌火曜の朝からだった。
とするなら、夫人が仙人に相談を持ち掛けた日の夕刻は、もう既にスズメが飛び込んでから何時間も経っていたということになるんじゃない?」
「そうなるわね。だからかもしれないけれど、その後の沙織の話の中には仙人への感謝が窺える節はなかったような気がする。多分、相談をするまでもなく、結果は出ていたのだ、と彼女は思い込んだんじゃない。そこのところ、よく確かめたわけじゃないけれど」
「細かいことなんてどうでもいいけど、とにかく、沙織夫人の時計、見つかってよかったわね。どうせ私たち、上流階級の方々とのお付き合いもないし、目の飛び出るような高価な物を身に付けるチャンスにも恵まれないしね。これからもこのような心配事はないと思うけど」
優菜の発した言葉に二人は顔を見合わせてオーバーに笑った。
普段であれば、このような他愛もない茶飲み話など、気にも留めることすらなかったであろうに、今日の有三は明らかに違っていた。