第一章 壊れた家族

ところが、世間が許さない。ここからこの家族は転落していく。転落させた張本人は祐一である。沖ヶ島は人口僅か213人の小島であり、絶海の孤島だ。絶海の孤島であるが故に、二つしかない集落では、祐一が引き起こした泥酔漂流事故が一瞬にして島の隅々にまで知れ渡った。

この先もずっとこの島で生きていかなければならないのに、島民はみんなが思っていた。泥酔して漂流して世間を騒がせたことに憤っていた。漂流は船の故障などが原因で何らかのアクシデントがあるかもしれないが、祐一の場合は違った。原因が泥酔なのが許せなかったのだ。

「島の恥」と、陰ではささやかれていた。そして直接罵る者もいた。

それは辛いことである。娘の恵理にも飛び火した。

「お前のお父さんは酔っ払いだ」

「酔っ払いの子」いじめられた。誹謗中傷だ。

特に男子は恵理の父親を馬鹿にした。

「小川、お前のおやじ、何やってんだよ。やーい、島の恥さらし」

男子の一人の川島が言った。「島の恥さらし」と言うのは、親たちが噂しているのを聞いてそのまま言っているのだ。恵理は大好きな父親を馬鹿にされたことが悔しくて泣き出した。

「ちょっと、恵理ちゃんがかわいそうじゃないの。お父さんが助かった。それでいいじゃないの」

この小学校は児童数が少ないので1年生から6年生まで同じ教室なのだ。その中で6年生の愛が少し激しい口調で助け舟を買って出た。愛は児童会長なのだ。