小川家の暮らし向きが島民から急激に冷ややかに見られていることを実感した智子は提案した。
「お父さん、私、気付いたんだけど、思い切って漁師をやめたらどうかしら。船を売って私と二人で畑を開墾して農業やろうよ」
ところが、祐一は根っからの見栄っ張りである。すぐに反論した。
「そんなことできるかよ。俺は生涯、漁師なんだ。亡くなったおやじの背中を見て育ったんだ。それで俺はおやじのような漁師になるんだって決めたんだ。漁師以外考えられない」
島民に、船を売って農業してることが知られたら恥ずかしい。そんなことは考えられないのだ。祐一はかつてない程の激しい口調で言った。
「お父さん、それなら船でお酒飲むのはやめなさい。アメリカの船に救助された時は、急性アルコール中毒で命に関わる状態だったって聞いたよ。家で飲むのはいいけど仕事中でしょ。飲み過ぎよ」
酒に裏切られたという思いがある祐一は、酒というワードを聞いて、それもあれだけ仲の良かった妻から言われたことで瞬間的にカチンときた。
「その話はやめろ」
激しい剣幕で怒鳴った。智子は今までに祐一からこんなに怒鳴られたことがなかったのでびっくりしたが、2度と起こしてはいけない事故だ。
「お父さん、船でお酒を飲むのをやめると誓って。私と恵理のためにも」
智子はすがり付く思いだ。すると、祐一からまた信じられない言葉が発せられた。
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