命運

「ほう、それはおもしろい。よし、わしが立会人になろう」

師範代の宗像は興味深そうな顔で頷くと、まるで弥十郎の言葉を聞かなかったかのように竹刀を打ち合っていた門弟たちに顔を向け大声を出した。

「おい、皆……稽古止めいっ! 今からこの二人が試合をするそうだ」

宗像の言葉に気合もろとも打ち合っていた門弟たちは、竹刀を引いて二人の方に視線を向ける。防具を外し各々道場の隅に端座した門弟たちの前に行くと、宗像は口調を改めた。

「皆はこの二人が若かりし頃、当道場で竜虎と呼ばれ感服されていたのは知っておろう。だが、雨宮師範の前で立ち合った勝負が雌雄を決することができなかったのはおまえたちも知るまいの。今日はそのときの決着をつけるために立ち合うと申しておる」

その言葉を受け道場の板間に座った門弟たちの間からは、好奇の目と共にいかなる立会いになるのか期待を膨らませざわめきが広がった。

「宗像さん……それがし、本心を明かせば猛之進とはこの様なかたちで立ち合いなどしたくないとそう思っております」

猛之進は弥十郎に厳しい視線を向けられたがお構いなしと言った態である。

「良いではないか。宗像師範代も立会人になってくれると申されておるのだ。それとも臆したか弥十郎」

「謀(はか)ったな猛之進……まあ、良いわ。おぬしがそれほどまでに望むならこの場で決着をつけるのもかまわぬ。だが、一つ約束をしてくれ。どちらが勝とうと遺恨は持たぬと」